「THE GREATEST SHOW-NEN」の思い出〜第十六回公演「鬱憤」〜

THE GREATEST SHOW-NENについて

  • はじめに

THE GREATEST SHOW-NENとは朝日放送テレビで放送されている演劇ドキュメント番組である。関西発の劇団・演出家・脚本家たちとアイドルのAぇ!groupがコラボレーションし、コメディ、シリアス、ホラーなど様々なジャンルの舞台を作り上げる。

番組の構成は2パートに分かれており、舞台が出来るまでのディスカッションや練習風景がメインの「裏側」、実際に舞台上で一発勝負の本番を演じる「演劇」。この2パートを30分で放送し、数週間かけて視聴者は一つの舞台の「裏側」と「演劇」を鑑賞する。

従来、舞台は決められた時間の中で「演劇」を見るのが一般的だが、何週間もかけて「裏側」と「演劇」を交互で見るというTV放送だからこそできる観劇方法がこの番組の特徴だ。

  • 「裏側」の魅力

この番組の好きな要素の一つに、「裏側」が挙げられる。毎公演1回目の「裏側」は演出家とAぇ!groupの顔合わせと公演内容のディスカッションが主に放送される。演劇のテーマ、登場人物の心情や身体表現など、Aぇ!groupに公演の中で表現して欲しいことを演出家自らが話し、公演に向けての練習が始まる。

例えば、第16回公演「鬱憤」では、台詞には書かれていない登場人物たちの本音の表現に役者たちは取り組む。言いたくても言えない本音を音楽、抑揚、表情などを駆使して台詞以外で表現する技術を役者たちは会得していく。

演出家による具体的なアドバイスのシーンもあるため、演劇を作り上げるまでの過程が演劇初心者にもわかりやすい映像になっており、演劇を作ることの面白さも伝わってくる番組なのだ。

  • THE GREATEST SHOW-NENによる変化

私はもともと演劇に対して興味関心が高いわけではない。演劇鑑賞経験といえば小学生の頃に体育館でみたピーターパンと、好きなアニメ原作の2.5次元ミュージカルをDVDで見たり、ライオン・キングを一度見に行ったぐらいだ。そんな私だが、THE GREATEST SHOW-NENを見たことで演劇に興味を持つようになった。関西旅行のスケジュールを立てた時にはTHE GREATEST SHOW-NENに関わった劇団の公演が旅行期間にあるか調べて見に行ったり、関西演劇祭in東京を見に行ったりした。趣味:演劇鑑賞と言えるほどではないが、好きなものの一つに演劇鑑賞が加わったのはTHE GREATEST SHOW-NENのおかげだ。

そんなTHE GREATEST SHOW-NENのレギュラー放送が2024年3月9日に終了する。毎週楽しみにしていた番組が終わることは非常に寂しいが、面白い演劇をたくさん見せてくれたことに感謝の気持ちでいっぱいだ。

以下はTHE GREATEST SHOW-NENで1番印象に残っている第16回公演「鬱憤」の思い出を綴っている。評論などではなく、個人的な日記のような内容であることにご留意いただきたい。

第十六回公演「鬱憤」の感想

  • 鬱憤との出会い

2023年2月19日、ひょんなことからAぇ!groupに興味を持つようになった私はTVerでAぇ!groupと検索し、THE GREATEST SHOW-NENの存在を初めて知る。適当にサムネを見て、コント番組をやっていると勘違いしたまま再生したところ、「感染症が蔓延した社会、若者たちの怒りと悲しみを描いた音楽劇……」という真面目なナレーションが始まり非常に驚いた。

この時TVerで配信していたのが第16回公演「鬱憤」第3話だったのだが、峠と村上の関係性の面白さと登場人物以外が心情を歌う演出に心惹かれ、更に演劇を作り上げるまでの課題を映す裏側が面白く、こんな面白い番組が放送されていることに感心した。関東在住のためTVerでお気に入り登録をし、次回の配信が待ち遠しかった。

第4話では村上が真実を知っていたことが判明し、峠から村上への呼び方も変わる。私は峠と村上のシーンが好きすぎて、配信期間中にTVerで何度も見返した。また、佑理の恋人である優弥が2年前に感染症で亡くなっていることが判明したことも衝撃的だった。

  • 第5話の佑理と優弥を見た私の感情

そして最終話の第5話。ここで佑理の一人称が俺であることを初めて知る。佑理も優弥もどちらも男性が演じているのだが、3〜4話の佑理からステレオタイプな男性らしさを感じられなかったこと、佑理という名前が男性とも女性とも取れること、これまでの経験によりTVで同性カップルの作品を扱うことへの不信感などから、佑理の性別を女性か男性か定めないまま第5話まで見ていた。

佑理と優弥がおそらく20代の同性カップルと認識してから、一気に佑理という存在に感情移入するようになった。

当時の私は3〜5話しか見ていないが、佑理が優弥のアウターに袖を通し愛おしく寂しそうに抱きしめる姿を見て、お互いに愛し合っていたことが痛いほど伝わってきた。あらすじ映像からも普通に生きて普通に生活を共にしてきたカップルなのだと想像できた。

私には一緒に住んでいる同性のパートナーがいる。コロナが流行り始めた時、法律上は他人である私達が罹ったらどうなるのか不安で仕方なかった。医療機関によって面会や医療同意の可否が異なるため、最後の時間を共に過ごすことができない可能性がある。医療機関だけではなく、生活の様々な手続きをするたびに家族ではなく他人というカテゴリであることを痛感する。他人という不安定な環境が変わることを願って選挙に行っても世界はすぐには変わらない。今も昔も不安を抱えながらも生きるために働いて日常を維持することしかできない状況だ。

佑理が優弥からの最後の留守電を聴くシーンが始まった時、コロナが流行り始めて不安だった時の気持ちを思い出してしまい、思わず泣いてしまった。優弥の震えながらも明るく振る舞う最後の留守電からは佑理も優弥もお互いに不安で仕方なくて、それでも笑顔で楽しく過ごしていたいという気持ちに共感してボロボロと泣いてしまった。

「鬱憤」では本音を台詞に表していない。佑理と優弥の間に不安だ、愛してるという台詞は無い。峠から村上に対して友人を騙していたことの後悔や謝罪の台詞はない。それでも、登場人物たちの本音は台詞ではない表情や動き、間で伝わってくる。そういった本音を直接的な台詞で言わなかったからこそ、全話数を見てなくても佑理と優弥に共感して泣いてしまったのだと思う。佑理が優弥のアウターに袖を通し抱きしめるシーンは本当に切なくて印象的だった。

  • 「鬱憤」を見た後

後日、パートナーとの旅行の移動時間の間はずっと鬱憤の話をするぐらい鬱憤の世界観にハマってしまった。峠が村上への呼び方を変えたのはいつなのか、村上が峠に水を渡した意図はなんなのか、佑理と優弥のシーンのどこが好きでどう感じたか。3〜5話しか見ていないにも関わらず、見終わった後に語りたいことがたくさんある作品だった。

1〜2話も見たい気持ちはあったが、サブスク配信をしていないため見る術がなかった。しかし、パートナーがAぇ!groupにハマったという話を聞いたパートナーの友達(eighter)の友達(Aぇ担)がデッキに残っていたTHE GREATEST SHOW-NENをDVDに録画して送ってくれたのだ。ありがとうパートナーの友達とパートナーの友達の友達。あなたたちのおかげで何度も鬱憤を見返すことができています。

そして、私とパートナーはTHE GREATEST SHOW-NENを見てAぇ!groupのことが大好きになり、番組を見たりラジオを聴いたり、アクスタと一緒に写真を撮ったりして日々を楽しんでいる。これからもAぇ!groupと一緒にたくさんの思い出を作っていけるのがとても楽しみだ。